北スラウェシ州紀行(9) ベンテナン布  Perjalanan ke Sulut (9)

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州都のマナドから車でおよそ2時間。ミナハサ県のソンデール(Sonder)にあるベンテナン・センター(Pusat Bentenan)は、ミナハサ・テキスタイル文化の“殿堂”的存在。州知事夫人の積極的な関与で建設されたと聞く。ここには数棟の施設があり、ベンテナン・イカット(絣)の工房もある。半機械織りで、数メートルもある長い絣が生産されている。しかし、綿糸も染めの化学薬品もすべてジャワ島産を使用している。最近、州政府は“ミナハサ民族のアイコン復活”と称して、ベンテナン布の普及に懸命だ。小中高校に呼びかけて、補助金も支出して、毎週一日は、ベンテナン布製の制服(注:ベンテナンのモチーフとされる模様をプリントした綿製の制服で、プリント&縫製ともジャワ島)を着用するように呼びかけている。
ベンテナン布は、州政府の説明によれば、今日の南ミナハサ県の東部海岸にあるベンテナン村で15世紀に最初に織られたとされる。このベンテナン布が、北スラウェシ州北部のサンギヘ(Sangihe)諸島一帯で、樹皮や植物繊維を素材にその昔織られていた布類の流れを引き継いで誕生したものかどうかについては、未だ確実な学問的検証がなされていない。あくまでも推察だが、おそらく、サンギヘ諸島一帯ではその昔、樹皮繊維(Fuya)や、パイナップルや芭蕉の繊維(Kofo)、そして竹の繊維(Wau)などを用いたイカット(絣)文化が独自に発達・興隆していたものと思われる。一方、本島のミナハサ半島では、サンギヘ諸島のイカット文化とは無関係に、たぶん、ベンテナン村周辺部で、外来の布を“サンプル”に、イカット手法を含む織物が15世紀頃始まったものと思われる。尚、ベンテナン布は1919年頃に、ラタハン(Ratahan)村での生産を最後に消滅したとされる。ちなみに、現在ベンテナン村でベンテナン布は織られていない。北スラウェシ州政府の調査によれば、“古ベンテナン布”は確認できただけで計28枚が現存している。内4枚が首都ジャカルタの国立博物館に収蔵され、残りは、オランダやドイツの博物館にあるという。


ソンデールにあるベンテナン・センターで、染め上げた経糸をモチーフに従って整理するスタッフ。

ベンテナン・布のモチーフリスト。上から:インドからインドネシアに伝わったパトラ模様。Pinatikan-Bantikと呼ばれるモチーフ。サンギヘ諸島&タラウド諸島のモチーフ。Sinoiモチーフ


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“物証”が国内外の博物館にあることを持って、「北スラウェシ州にはかつてベンテナン布文化が存在した」ことの強い根拠となっているが、地元の学者の中には、「ベンテナン布は北スラウェシのオリジナルの織物ではなかった」と公然と批判する者も少なくない。例えば、トンダノ(Tondano)市にメインキャンパスを置く国立マナド大学(UNIMA:旧マナド教育大学)の言語芸術学部のエリアス・パンキー講師は、次のような自説を強調する。
『文化の復活と言えば聞こえはいいが、私はベンテナン布と言われる織物が、この北スラウェシ州で生まれたものとは考えていません。今後さらに論議を必要としますが、個人的には、ベンテナン布は外来の布だったと確信しています。つまり、15世紀以降と言えば、スペインやポルトガル、そしてオランダなどから香料列島を目指して航海者や商人が、この北スラウェシ方面をも訪れました。その際に、彼らは物々交換の一つとして布類を持ち込みました。それらの布は、インド製の物もあったろうし、(現在の)インドネシア領域内から集めてきた物もあったでしょう。例えば、東のハルマヘラ島から、さらにはマルク諸島や小スンダ列島の島々で作られた布、殊にイカットです。それらの布は、当時、ベンテナン島を眼前に、交易の港として栄えていたベンテナン村に集積されたのです。つまり、スラウェシ島の外から運ばれた物資は、ベンテナン村で荷揚げされたのです。やがてベンテナン村から北スラウェシの各地に、それらの布が普及し、その内、布は“ベンテナン布”と呼ばれるようになったのです』
エリアス氏の論を借りるまでもなく、日本の絣も、実は、その昔(おそらく江戸時代以前からか?)、琉球を経て、現在のインドネシア領域、インドシナ地域、または中国などから伝えられた織物技術であって、その意味においては、絣の“原点”は日本国内ではない。同様に、沖縄には芭蕉布文化が今でも受け継がれているが、沖縄が“原点”であったかどうかは不明だ。芭蕉の繊維から糸を作る手法は、ひょっとすると、南のフィリピン、もしくはまさに北スラウェシのサンギヘ諸島辺りが“原点”かもしれない。
多種多様な布文化に恵まれるインドネシアにあっては、布は単に被服文化としてだけではなく、民族アイデンティティを表象する伝統文化として、各地で大切にされてきた。いわんや、スハルト長期政権が終焉を告げた以降の「地方自治の向上」時代にあっては、各州、各県で競うように地元の伝統テキスタイルを、民族のアイコンとして採用し始めている。北スラウェシ州の「ベンテナン布」の“復活”---それはミナハサ民族のアイデンティティ復活に重要な役割を果たそうとしている。



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ベンテナン村とベンテナン島(衛星画像)


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ソンデールにあるベンテナン・センター。展示&販売の棟、そして機織り機の棟、染め工房など充実した設備。


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ベンテナン・イカットは約80万(\9,400)~120万ルピア(\14,200)で売られている。


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染めた経糸を台の上で、きちんと揃え直す。この後で機織り機で緯糸を入れる。


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このお猿さんのような柄は、ミナハサ地方の古いお墓である「ワルガ(Waruga)」と呼ばれる石棺に刻まれた人物モチーフから採用したという。


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北ミナハサ県アイルマディディ郡サワンガン村には、800~1200年前に作られたとされるワルガが計144基ある。


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【参考ブログ】


北スラウェシ州紀行(8) イカット文化 Perjalanan ke Sulut (8)
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/200810/article_3.html

北スラウェシ州紀行(7) マナドのお粥  Perjalanan ke Sulut (7)
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/200810/article_2.html

北スラウェシ州紀行(6) マナド(Manado)  Perjalanan ke Sulut (6)
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/200810/article_1.html

北スラウェシ州紀行(5) マナド(Manado) Perjalanan ke Sulut (5)
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/200809/article_34.html

北スラウェシ州紀行(4) ブナケン(Bunaken) Perjalanan ke Sulut (4)
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/200809/article_33.html

北スラウェシ州紀行(3) ブナケン(Bunaken) Perjalanan ke Sulut (3)
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/200809/article_32.html

北スラウェシ州紀行(2) シーラカンス  Perjalanan ke Sulut (2)
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/200809/article_31.html

北スラウェシ州紀行(1) マナド(Manado) Perjalanan ke Sulut (1)
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/200809/article_30.html

マカッサルの「パニンクル」が二冊目の出版(INDONESIA di Panyingkul!)
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/200807/article_3.html

マカッサル市民ジャーナリズムに支援の手を(Bantuan utk Buku Panyingkul)
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/200805/article_8.html

マカッサル映画鑑賞&マカッサル文学講演(Film & Sastra Makassar)
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/200804/article_2.html

西スラウェシの伝統船サンデックで黒潮海道を航海
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/200707/article_3.html

トラジャ文化&トラジャ語を学ぶインドネシア理解講座(Budaya & Bahasa Toraja)
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/200707/article_1.html

トラジャ人画家マイク・トゥルーシー個展(Pameran Tunggal Mike Turusy)
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/200706/article_10.html

トラジャ人画家マイク・トゥルーシー個展のお知らせ(Pameran Mike Turusy)
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/200705/article_2.html

北スラウェシ州政府
http://www.sulut.go.id/new/?

マナド市観光局
http://www.manadokota.info/

NSTPB(North Sulawesi Torusim Promotion Borad)
http://www.north-sulawesi.org/index.html

北スラウェシ州サンギヘ諸島県
http://www.sangihe.go.id/

World Ocean Conference 2009
http://www.woc2009.org/

特定非営利活動法人 Manado Net Japan
http://manadonet.com/

Sulutlink Foundation
http://www.sulutlink.org/

常夏のスラウェシ島(インドネシア)情報マガジン
http://www5d.biglobe.ne.jp/~makassar/


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