パプアの桜(No.1) Pohon Sakura Papua(No.1)

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日本の花と言えば、まず“桜(サクラ)”。春の到来を象徴する花だ。日本人の心を比喩する場合にも頻繁に登場する。パッと咲いてパッと散る。華やかではあるが、短命に終わるサクラの命運は、かつて「同期の桜」の一節で、大和魂の代名詞として使われたこともある。「さまざまのことおもひ出す桜哉」----松尾芭蕉は、桜の開花に、人の世を重ねてそう表現した。
それが故か、かつて太平洋戦争の時代、いわゆる南方に送られた日本軍兵士たちは、当地で見た、日本の桜に似た花に、望郷の想いを込めて、“○○桜”と命名することを厭わなかった。同様に、富士山に似た山に、やはり“◎◎富士”と命名したものだ。
インドネシアの最西端・アチェを舞台に描いたドキュメンタリー映画『二つの故国をつなぐ歌』(参照ブログ:http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/200702/article_2.html)の主人公は、日本軍人と現地の女性との間に生まれ、“サクラ”と命名された。
しかし、旧日本軍が残した“サクラ”は、同国の最西端ばかりではなかった。インドネシアの最東端、現在のパプア州(西部ニューギニア)にも“サクラ”が残っている。ここもかつて日本軍が占拠し、連合国軍との間で壮絶な死闘を繰り返した地だ。
パプア出身で、現在はインドネシアの有力夕刊紙『Suara Pembaruan』の編集委員を務めるウォラス・クレナックさんが、“パプアのサクラ”の存在に関して、多数の画像と共に、リポートを送ってきた。「確かに日本の桜とは花びらや葉の形状が異なっている。でも、その木があるチェンドラワシ大学の学生たちは、開花が始まると、『サクラ祭りの季節がやってきた』と今でも気持ちが浮き立つ。地元民の話では、かつて日本軍兵士が植えたそうだ」と、ウォラス氏。



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パプア州の州都ジャヤプラ(Jayapura)は、かつてホーランジア(オランダの都)と呼ばれ、後にコタバル(新しい街)、そしてインドネシア併合後にはスカルノプラ(スカルノの都)と改称、そして歴史の推移と共に、現在のジャヤプラとその名を変えた。一方、地元の人々は、その昔よりポート・ヌンバイ(Port Numbay)と呼称していた。かつてのフンボルト湾(現在のジャワプラ湾・地元の人々はインビ=Imbi湾と呼んでいる)は、日本の春の時期、穏やかな海面を見せる。インドネシアの“辺境”と呼ばれた地は今では人口30万近くの都市に生まれ変わろうとしている。2007年には、埋立地に四つ星ホテルもオープンした(2007年5月、Wolas Krenak氏撮影)


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州都ジャヤプラの北側の位置する“Base G”海岸。日本軍が地雷を敷設した白砂の海岸に1944年4月22日、米豪の連合国軍が大量の艦船と共に上陸を開始した。その日、海面は穏やかだったに違いない。そして、“パプア桜”もその年の開花を始めたばかりだったのかもしれない。(2003年11月GBI撮影)


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国立チェンドラワシ(極楽鳥)大学の旧キャンパス。現在は教育学部の低学年学生の施設として使用されている。大学のメインキャンパスは、付近の小高い山岳部に移転している。“パプアの桜”は、この旧キャンパスの一角にある。(以下、Wolas Krenak氏2007年5月撮影)


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国立チェンドラワシ大学人類学博物館。パプア(旧イリアンジャヤ)州の民族文化を知る上で最高レベルの展示物を誇る。


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これが、旧日本兵が植えたとされる“パプアの桜”。アベプラ(Abepura)地区にある旧チェンドラワシ大学(Universitas Cenderawasih。略してUncen・ウンチェンと呼ばれる)のキャンパスに鎮座。“極楽鳥”の名を冠する大学に“桜”とは、なんともユートピア的な存在だ。「同期の桜」では、《咲いた花なら散るのは覚悟、みごと散りましょ国のため》、そして《花の都の靖国神社、春の梢に咲いて会おう》と歌われたが、ここウンチェンでは、“ペスタ・サクラ(Pesta Sakura・桜祭り)”の主人公として、まさに“同期”を超えて、全学年で開花の季節を堪能しているそうだ。高さおよそ20メートル、根元の太さはおよそ55cm、枝の総数は8本で、各々の枝はやがて二つに分かれ、その先もやがて二つの小枝になっている。


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“旧日本兵が植えたサクラ”と言われているが、その真偽は定かではない。しかし、戦時中、遠く故国から5,000kmも南下したニューギニア島で目にした、“日本の桜”に酷似したこの樹木を、兵隊さんたちが“パプアの桜”と呼んだとしても、何ら不思議なことではない。インドネシアを始め、南太平洋一帯で咲く、火焔樹(かえんじゅ)は別名“南洋桜”とも呼ばれる。この“パプアの桜”が“南洋桜”なのか、それとも別種なのかについて判断する知識を筆者は持たない。図鑑などを見てみると、遠景では似ていても、個々の花びらの形状は、“南洋桜”とは著しく異なっているように見える。読者の知識をお借りしたいところだ。


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情報を寄せてくれたウォラス・クレナック氏。1955年5月5日、現在の西パプア州(Propinsi Papua Barat)の南ソロン県サウィアット地区ソドゥロフォヨ村生まれ。国立チェンドラワシ大学教育学部卒。地元紙の記者などを経て、現在は、首都ジャカルタで発行されている同国最大の夕刊紙『Suara Pembaruan(旧Sinar Harapan紙)』の地方担当の編集委員。



【参考ブログ&ホームページ】


早稲田大学探検部が新種生物との遭遇のためパプア州へ出発
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/200702/article_4.html

大川誠一のGBIニュース(2000年9月20日)
http://www.harapan.co.jp/indonesia/gbi/gbinews/gbinews000920.htm

大川誠一のGBIニュース(2000年9月9日)
http://www.harapan.co.jp/indonesia/gbi/gbinews/gbinews000909.htm

大川誠一のGBIニュース(2000年9月8日)
http://www.harapan.co.jp/indonesia/gbi/gbinews/gbinews000908.htm

大川誠一のGBIニュース(2000年9月3日)
http://www.harapan.co.jp/indonesia/gbi/gbinews/gbinews000903.htm

大川誠一のGBIニュース(2000年8月30日)
http://www.harapan.co.jp/indonesia/gbi/gbinews/gbinews00830.htm

大川誠一のGBIニュース(2000年7月26日)
http://www.harapan.co.jp/indonesia/gbi/gbinews/gbinews000726.htm

大川誠一のGBIニュース(2000年7月17日)
http://www.harapan.co.jp/indonesia/gbi/gbinews/gbinews000717.htm

大川誠一のGBIニュース(2000年7月8日)
http://www.harapan.co.jp/indonesia/gbi/gbinews/gbinews000708.htm

大川誠一のGBIニュース(2000年6月25日)
http://www.harapan.co.jp/indonesia/gbi/gbinews/gbinews000625.htm

大川誠一のGBIニュース(2000年6月24日)
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大川誠一のGBIニュース(2000年2月14日)
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大川誠一のGBIニュース(1999年12月16日)
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大川誠一のGBIニュース(1999年11月26日)
http://www.harapan.co.jp/Indonesia/GBI/GBInews/GBInews991126.htm

大川誠一のGBIニュース(1999年7月2日)
http://www.harapan.co.jp/indonesia/gbi/gbinews990702.htm

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http://www.harapan.co.jp/indonesia/gbi/gbinews990601.htm

大川誠一のGBIニュース(1999年5月31日)
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ライラのイリアンジャヤだより(1999年3月4日)
http://www.harapan.co.jp/indonesia/gbi/laila20.htm

大川誠一のGBIニュース(1999年2月24日)
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大川誠一のGBIニュース(1998年9月29日)
http://www.harapan.co.jp/indonesia/gbi/gbinews980929.htm

大川誠一のGBIニュース(1998年8月28日)
http://www.harapan.co.jp/indonesia/gbi/gbinews980828.htm

大川誠一のGBIニュース(1998年8月21日#2)
http://www.harapan.co.jp/indonesia/gbi/gbinews980821%5F2.htm

大川誠一のGBIニュース(1998年8月19日)
http://www.harapan.co.jp/indonesia/gbi/gbinews980819.htm

アチェ刺繍展&アチェのドキュメンタリー映画上映会
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/200706/article_2.html

アチェのドキュメンタリー映画上映会のお知らせ
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/200705/article_4.html

映画『二つの故国をつなぐ歌』ジャカルタ上映&報告
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/200704/article_6.html

映画『二つの故国をつなぐ歌』上映会のお知らせ
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/200704/article_2.html

早春賦をテーマにした映画が完成しました!
http://soushunfu.blog89.fc2.com/

アチェ伝統刺繍文化展のお知らせ(Pameran Budaya Sulaman Aceh)
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/200704/article_1.html

映像で見るアチェの今昔
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/200701/article_2.html

スマトラ島沖大地震・巨大津波二周年報道写真展のお知らせ
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/200612/article_7.html

アチェ&早春賦(映画:二つの故国をつなぐ歌)
http://grahabudayaindonesia.at.webry.info/200702/article_2.html









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